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札幌高等裁判所 昭和47年(う)342号 判決 1973年5月22日

主文

本件控訴を棄却する。

理由

本件控訴の趣意は、弁護人武田庄吉提出の控訴趣意書および控訴趣意補充書(二通)に記載されたとおりであるから、いずれもここにこれを引用し、これに対しつぎのように判断する。

控訴趣意一 事実誤認の主張について。

論旨は要するに、原判決は、本件公訴事実をそのまま認め、被告人を常習賭博罪に問擬した。しかし本件賭博は、その動機、規模よりみれば、偶発的な一時の娯楽にすぎず、また、被告人には同種前科が数回あるが、昭和四四年一〇月一五日釧路地方裁判所で処罰されて以来本件までの約二年間全く賭博をなしておらず、単に前科の存在のみにまどわされて常習性を認定すべきではない。現に被告人と共に本件賭博をなし、前科関係もさしたる違いのない原審相被告人上坂松枝は、単純賭博罪として罰金刑に処せられているのである。以上の諸点よりみれば、被告人の本件所為は、単純賭博罪に該当するものであり、これを常習賭博罪に問擬した原判決には、判決に影響を及ぼすことの明らかな事実誤認がある、というのである。

しかしながら、原判決挙示の各証拠ならびに当審事実調の結果によれば、原判示の事実は優にこれを認めることができ、原判決には所論のような事実誤認はない。

すなわち、右各証拠によれば、本件は、被告人が原判示の日時に、借金を返すため飯間ナツ方に赴いた際、たまたま顔見知りの婦人数名が花札賭博をなしていたため、被告人も誘われるままついこれに加わり、本件賭博をなしたものであることが認められ、被告人の本件所為が偶発的になされたものであることは、所論指摘のとおりである。しかしながら、賭博罪における常習性は、反復して賭博行為をなす習癖をいい、行為者の属性を指称するのであるから、賭博をなすに至つた動機ないし理由が偶発的なものであるか否かはさして重要な要素といいえない。加えて、被告人は、原審段階より一貫してここ約二年間は全く花札を手にしていないというが、関係証拠とくに飯間ナツの司法警察員に対する供述調書謄本によれば、被告人の右弁解はにわかに借信しえないのみならず、仮にこれを真実と仮定しても、後記認定のとおり執行猶予中の身でありながら、本件のように些細なきつかけで賭事に加わるということは、被告人の属性としての賭博の習癖が未だ根強く存続していることの証左とみることもできる。所論は、本件の規模、態様に徴し、女性同志の単なる手なぐさみに過ぎず、被告人にとり常習性のあらわれとはいえないというが、前掲各証拠によれば、本件賭博は、俗に「サツポロばか」と称し、一回の勝負(約五分)で勝者は数百円から千数百円を得ることができ、これを反復継続すれば、勝敗の帰すう如何によつては賭金の得喪もかなりの高額にのぼることが予想され、かつ、本件は約一時間五〇分に亘つて行われたが、警察官に現認されなければ、なお相当時間継続していたものと推認することができ、このような事実関係のもとにおいて、本件賭博が所論のように女性同志のたんなる手なぐさみにすぎず、常習性の顕現でないとはとうてい評価しえない。さらに所論は、単純賭博罪に問われた原審相被告人上坂松枝とを対比し争うが、一件記録上明らかなとおり、右上坂と被告人の賭博罪に関する前科は、その態様、回数、処罰年月日等においてかなりの差があり、同日に論ずるのは相当でない、以上のような、本件犯行の経緯、態様、のちに認定するような同種前科の存在等よりみれば、被告人に対し常習性の存在を認めた原判決の判断は正当であり、原判決には所論のような事実誤認のかどはない。論旨は理由がない。

控訴趣意二 量刑不当の主張について。

よつて判断するに、本件犯行の経緯、態様はすでにみたとおりであるところ、被告人は、昭和二一年一月一五日、昭和三八年一月二三日にいずれも賭博罪により罰金刑に処せられているほか、(1)、昭和四〇年四月一九日常習賭博罪で懲役一〇月執行猶予三年に、(2)、昭和四三年一一月二九日常習賭博罪、賭博開張図利罪で懲役一〇月執行猶予五年に、(3)、昭和四四年一〇月一五日常習賭博罪で懲役八月保護観察付執行猶予三年に各処せられ、本件犯行は右(2)、(3)、による執行猶予期間中になされたものであつて、常習性の根は深いものというべきである。再三に亘る執行猶予の判決により更生の機会を与えられながら、未だこれをなしえない以上、仮に本件が法律上執行猶予を付する余地があると解しえたとしても、もはや被告人に対し本刑の執行を猶予するのは相当でない。たとえ、被告人の年令、健康状態、反省悔悟の情、さらには前記(2)、の執行猶予が取り消されることなど、所論指摘の諸事情を充分考慮しても、原判決の量刑はやむをえないものと思料される。論旨は理由がない。

よつて、刑事訴訟法三九六条により本件控訴を棄却することとし、主文のとおり判決する。

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